個人番号、いわゆるマイナンバーが平成27年10月より日本に住民票を有するすべての人に対して交付されました。
このマイナンバーは各種行政手続きにおいて平成28年1月より必須となっており、年金の資格取得や医療保険の給付請求のみならず、税務当局へ提出する確定申告書、届出書、調書等においても記載が必要となっています。
具体的には、所得税の確定申告については平成28年1月1日の属する年分以降の申告書、届出書や申請書については届出書や申請書についてマイナンバーの記載をしなければならなくなりました。
申告書や届出書等の他にも、源泉徴収票や償却資産申告書、支払調書等についてもマイナンバーの記載をすることとなっています。
このように税務手続きの各分野においてマイナンバーを利用することとなっており、ポイントごとに留意すべきことについて詳しくみていくこととします。
各ポイントは
事業を行う上で支払いをする側、支払いを受ける側におけるマイナンバーの利用
申告書、届出書、調書等の提出
他者のマイナンバーを使用する上での管理上の注意点
となっています。
事業遂行上の取引に伴い事業者は従業員に対して給与を支払い、取引先に対して報酬を支払います。
このように事業を行う上で何らかの支払いが生じた場合には、事業者は源泉徴収票や調書を作成し、税務署や都税事務所、県税事務所等に対して提出するとともに、受給者に対してそれらの書類を交付することとなります。
これらの書面にはマイナンバーの記載が必要となっているため、事業を行う上で支払いをする側においてはこのような場面においてマイナンバーを使用しなければなりません。
具体的な作成時期としては、源泉徴収票については年末調整時に作成をするため12月頃、調書については報酬等の支払いをした翌年1月中になります。
ただし、退職者に対しては退職時までのその年分の源泉徴収票を作成するため、年の途中にあっても作成をすることが必要になります。
そして、この源泉徴収票には、その支払いを受ける本人だけでなく、控除対象配偶者や控除対象扶養親族全員のマイナンバーを記載しなければならないので留意が必要です。
源泉徴収票を作成する対象となるのは従業員であるため、マイナンバーを収集するための連絡、受け取りは容易にできると思います。
しかし、調書を作成する場合には源泉徴収票のようにはいかない場合があります。
不動産の使用料等の支払調書のように常に継続して取引を行っている相手先であれば比較的容易に収集ができるでしょう。
たとえば、一度だけの取引により報酬を支払ったような場合にはどうでしょうか。
取引時にマイナンバーの提供を失念してしまった、連絡先が変わってしまっていた、提供を拒否されてしまった、など様々な要因によってマイナンバーの提供を受けられない場合が想定されます。
マイナンバーの記載は国税通則法や所得税法等で定められた義務であるため、記載のない税務書類の提出は義務違反となってしまいます。
そのため、マイナンバーの提供が受けられていない取引関係者に対しては法律による義務であることを必ず説明し、提供を受けられるようにする必要があります。
それでも提供が受けられない場合には、その経過等を記録し、単なる義務違反でないことを明確にしておくべきでしょう。
記録等を保存したうえで、マイナンバーの記載していない税務書類等を提出することになります。
提出後にようやくマイナンバーの提供が受けられた場合には、当初提出したものについては法定記載事項を満たしていないことから、原則としてはマイナンバーを記載した正しい調書を再提出する必要があります。
ただし、マイナンバー以外の記載事項に誤りがない場合には、法定調書提出義務者の事務的負担を考慮し、再提出をしなくても差し支えないとされていますが、再提出をしない場合には税務署から確認の連絡がある場合があるので、上記のような経過の記録は必ず残しておくようにしましょう。
一方、上記のような支払いを受ける側においては、自らが何らかの手続きにおいてマイナバーを利用するということは生じず、支払先からマイナンバーの提出を求められたときに提出をすれば足りることとなります。
ただし、当然ながらマイナンバーが個人情報であることはしっかりと意識し、提供をする場合には何に利用するために提供するのかを確認することをすべきでしょう。
そして、複数の相手からマイナンバーの提供を求められることが想定されるため、誰に対して自らのマイナンバーの提供をしたのかをしっかりと把握しておく必要があります。
また、マイナンバーの提示をすることで税務署や地方自治体、その他社会保険事務所など公的機関に対して自らの所得情報等が提出されているということを認識しておきましょう。
冒頭において説明した通り、平成28年1月1日の属する年分以降の所得税確定申告書、平成28年1月1日以降に提出する番号の記載が必要となる届出書・申請書、平成28年分の償却資産申告書などにおいては自らのマイナンバーを記載しなければなりません。
また、マイナンバーを税務書類に記載するとともに、併せて下記の書類のいずれかを添付して提出をする必要があります。
マイナンバーカードの写し
番号確認書類(通知カードの写し、または、マイナンバーの記載のある住民票の写し若しくは住民票記載事項証明書)及び身分確認書類(運転免許証、パスポート、在留カード、公的医療保険の被保険者証、身体障害者手帳など)
なお、マイナンバー制度の導入は、税務書類への記載や添付書類の提出など、面倒が増えただけのように感じるかと思います。
しかし、マイナンバー制度によりこれまでよりも面倒が減るという場面も少なからず存在しています。
たとえば、これまで住宅借入金等特別控除(いわゆる住宅ローン控除)の適用を受ける際には、初年度は確定申告が必要であり、かつ、同時に住民票の写しの添付が必要でしたが、マイナンバー制度の導入により平成28年分の申告(原則として平成29年1月以降に提出するもの)からは住民票の写しの添付が不要となりました。
マイナンバー制度の導入は社会保障・税制度の効率性・透明性を高め、国民にとって利便性の高い公平・公正な社会を実現することが目的となっているため、マイナンバーの記載により個人の情報の一致は容易となり、住民票の写しの添付は不要となったのです。
また、このマイナンバーについて、非居住者の方については留意が必要となります。
マイナンバーは日本に住所を有している人に対して一律に交付されています。
それに対し、所得税法上の非居住者は「居住者以外の個人」と規定(所得税法第2条第1項第5号)されており、居住者は「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人」と規定(所得税法第2条第1項第3号)と規定されています。
そして、ここでいう住所とは、「各人の生活の本拠をいい、生活の本拠であるかは客観的事実によって判定する」と規定(所得税基本通達2-1)されています。
つまり、税法においては必ずしも住民票によって判断するのではなく、滞在日数や生活場所、生計を一にする親族の居住地など様々な状況を総合的に勘案して実態が居住者であるか非居住者であるかを判断するのに対し、マイナンバーの交付は住民票に基づき一律に交付されるため、税法上の非居住者であってもマイナンバーが交付される場合があります。
このような場合、提出する税務書類にマイナンバーの記載が必要となるのかという疑問が生じてきます。
この点について税務署に確認をしたところ、回答は担当者により異なっており、共通の回答は得られていません。
そのため、日本に住民票を有する非居住者の方については個別確認が必要になりますので留意しましょう。
マイナンバーは非常に重要な個人情報であり、管理運用は慎重に行わなければなりません。
特に知っておくべき点は、マイナンバーの利用方法を誤ると非常に重い罰則規定があるということです。
マイナンバー制度は、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(いわゆる番号法)にて規定されており、個人情報保護法の特別法として位置づけられています。
特別法である番号法は個人情報保護法よりも優先されるものであり、罰則規定についても個人情報保護法よりも厳格なものとなっています。
たとえば、「個人番号利用事務等に従事する者又は従事していた者が、正当な理由がないのに、その業務に関して取り扱った個人の秘密に属する事項が記載された特定個人情報ファイルを提供したときは、4年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(第48条)」、「前条(第48条)に規定する者が、その業務に関して知り得た個人番号を自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し、又は盗用した者は、3年以下の懲役若しくは150万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(第49条)」などの規定があります。
そのため、マイナンバーの取り扱いについては、取得、保管、利用などそれぞれの状況ごとに細かいルールを定め、厳格に取り扱っていくことが必要となります。
注意すべき点は様々ありますが、特に注意すべきものについて下記において確認をします。
マイナンバーを取得する時点においては、何のためにマイナンバーを取得し利用するのかを特定し(個人情報保護法第15条)、その利用目的を本人へ通知又は公表をする(個人情報保護法第18条)ことが必要になります。
そして、マイナンバーの提供を受ける場合には通知カードなどによるマイナンバーの確認、および運転免許証等による身元確認が必須です。
配偶者や扶養親族のマイナンバーを、従業員等を通じて提供を受ける場合には、上記2つのほか、委任状等の代理権の確認も併せて必要となります。
マイナンバーの保管にあっては、必ず施錠できるキャビネットに収納する、PCのセキュリティを強化する、取扱担当者を選定する、取扱場所は担当者以外の往来が少なく後ろから見られるリスクの低い場所とする、などの対策が必要となります。
また、保管については事務を行う必要がある場合に限り保管し続けることができるものであるため、必要がなくなった場合には廃棄をしなければなりません。
つまり、個人番号関係事務を処理する必要がなくなった場合、または、法令において定められている保存期間を経過した場合には、書面で保管しているマイナンバーはもちろんのこと、データで保管しているものについても速やかに廃棄をする必要があります。
利用にあたっては、上記の罰則規定でも触れたとおり、他の者のマイナンバーを利用できるのは利用目的に合致しているときのみであり、それ以外の場面において利用することはできません。
また、税務書類ではこれまで説明をしてきたとおり、提出書類にマイナンバーを記載しなければなりません。
なお、本人に対して交付義務のある源泉徴収票にはマイナンバーの記載はしないこととされています。
そして、本人に対して交付義務のない調書については、番号法上の特定個人情報の提供制限を受けることとなるため、マイナンバーを記載することはできないので、特に注意が必要となります。