個人事業主の方が確定申告をするとき、白色申告にすべきか、青色申告にすべきか考える方も多いでしょう。
事業を開業しようとする時に開業の届けと同時に青色申告の為の申請書も提出することを勧められることも多いですので、一般的には青色申告で確定申告をすることがオススメとされています。
確かに青色申告をすることで、白色申告にはない税制上のメリットを複数受けることができます。
そこで今回は、白色申告と青色申告双方のメリット・デメリットを比較して、それぞれどういった点で優れているのかを見ていきたいと思います。
白色申告は所得税の確定申告において、原則の申告方法です。青色申告の申請を行っていない場合は、白色申告になります。
白色申告の流れは以下のとおりです。日々の取引を単式簿記で帳簿付けし、1年間の売上や仕入などの損益科目の合計金額を収支内訳書に記載する。収支内訳書で計算した所得をもとに、確定申告書で納める税金を計算します。
白色申告をする場合のメリットは次のとおりです。
①事前準備が不要
青色申告をするためには、「所得税の青色申告承認申請書」を提出する必要があります。
この青色申告承認申請書は、「事業開始の日から2か月以内」または「青色申告をしようとする年の3月15日まで」に提出する必要があります。
※開業1年目から青色申告をするには、開業後2か月以内に青色申告承認申請書を提出する必要がありますが、初めてのことなので気づけば期限を過ぎているということが結構あります。その場合、開業1年目は白色申告しかできません。1年目の確定申告の提出と一緒に「所得税の青色申告承認申請書」を提出することで、2年目から青色申告をすることができます。
②日々の帳簿付けが簡単
白色申告の場合、平成25年までは一定の所得がある場合を除いて帳簿等の保存義務はありませんでしたが、平成26年1月から白色申告をするすべての個人事業主に帳簿等の保存が義務付けられました。そのため帳簿の作成が必要ですが、白色申告は単式簿記という簡単な方法での帳簿付けが認められています。
単式簿記とはお金が動いた目的のみを記載する、より簡単な方法です。現金や普通預金などの支払った手段は記載せず、「消耗品費」や「雑費」など支払った目的のみを記載します。
「おこずかい帳」は単式簿記の帳簿の一例です。おこずかい帳では「何に使ったか」が重要になります。
例)パソコン80,000円を現金で買った。
この場合、おこずかい帳は何に使ったかが重要のため、パソコンの科目(消耗品費など)のみ記載します。つまり、売上や経費など損益の科目のみを記載する方法です。
(2)白色申告のデメリット
白色申告のデメリットは、青色申告の項で説明する青色申告の特典が受けられないことです。特に、次の3つのことは納める税額に影響します。
・青色申告特別控除が使えない
・赤字の3年間の繰越ができない
・家族への給料が経費にならない(ただし、白色専従者控除が受けられる)
白色申告のメリットとデメリットをまとめると次のとおりです。
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メリット |
デメリット |
事前準備 |
必要ないので手間がない |
|
日々の取引の帳簿付け |
単式簿記なので簡単 |
|
青色申告の特典 |
なし。ただし白色専従者控除が受けられる |
青色申告特別控除が使えない 赤字の3年間繰越ができない 家族の給料を経費にできない |
※白色専従者控除とは、白色申告者の配偶者やその他15歳以上の親族で年間で半年以上その事業に従事している人に対して支払った給与について全額必要経費とみなすことができる控除に仕組みです。
控除できる金額は条件があります。
(1) 事業専従者が、事業主の配偶者なら86万円、配偶者以外なら専従者一人につき50万円
(2) この控除を行なう前の事業所得等の金額を専従者の数に1を足した数で割った金額
この2つでだした金額の低い方が控除できる金額となります。
白色申告時の申告書にこの控除を受ける旨や金額を記載して申請します。
次に、青色申告のメリットとデメリットを見ていきましょう。
簡単に言うと青色申告は、「普段から正確な帳簿付けをしている人には優遇しますよ」というものです。青色申告ができる所得は不動産所得・事業所得・山林所得(10万円控除のみ)
と決まっています。また、青色申告はその帳簿の正確性などにより、10万円控除と65万円控除の2つに分かれます。
青色申告のメリットは、様々な特典を受けられることです。ここでは、青色申告の特典を見ていきましょう。
①青色申告特別控除
青色申告をする場合は、10万円または65万円の青色申告特別控除を受けることができます。
青色申告特別控除は所得金額を求めるときに控除されます。
所得金額とは、売上などの収益から仕入などの費用をひいた「もうけ」です。ここからさらに青色申告特別控除を差し引きます。
所得金額=収益-費用-青色申告特別控除額 です。
②青色事業専従者給与
所得税では、配偶者や家族に対する給料は経費にすることができません。青色申告をしている場合は、「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出することで、15才以上の家族に対する給料(青色専従者給与といいます)を経費にすることができます。
届出書の提出期限は「事業開業の日から2か月以内」または「青色事業専従者給与額を算入しようとする年の3月15日まで」です。平成29年から青色申告専従者給与を使いたいときは、平成29年3月15日までに届け出を出します。届出書には、青色事業専従者の氏名、職務の内容、給与の金額、支給期などを記載します。
なお、青色事業専従者になるためには次の要件が必要です。
ⅰ)青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
ⅱ)その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること
ⅲ)1年を通じて半年以上もっぱらその事業に専従していること
※「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出したからといって必ず給与を支払わ
なければいけないということはありません。専従者給与を出さず、配偶者控除をうけることも可能です。
③貸倒引当金
貸倒引当金とは、売掛金や貸付金などの債権が回収されないリスクを見越し、一定額をあらかじめ今年の経費として計上しておくお金のことです。
④損失の繰り越し
青色申告をしている場合は赤字の金額を3年間繰り越すことができます。赤字を繰り越すことで、翌年以降出た黒字をその分相殺することができます。この制度を適用するためには、毎年連続して確定申告をする必要があります。
⑤少額減価償却資産の特例
通常1つあたり10万円以上のものを購入した場合(仕入や材料費など販売するものを除く)は、固定資産にする必要があります。
固定資産は購入時に一括して経費にすることができず、毎年少しずつ「減価償却費」として経費にします。青色申告をしている場合は、年間300万円までの上限はありますが、1つあたり30万円未満のものを購入年度の経費にすることができます。
青色申告のデメリットには次のものが挙げられます。
①事前の申請が必要
白色申告で見たように、「所得税の青色申告承認申請書」を「事業開始の日から2か月以内」または「青色申告をしようとする年の3月15日まで」に、提出する必要があります。
②複式簿記での記帳が必要
日々の取引の記帳方法には「単式簿記」と「複式簿記」の2つの方法があります。青色申告10万円控除は、白色申告と同じ「単式簿記」で記帳できますが、青色申告65万円控除では、「複式簿記」で記帳する必要があります。
複式簿記とは、簡単に言うと『「何を」「何に使ったか」の両方を記載する方法』です。
例)パソコン80,000円を現金で買った。
「何を」が「現金」、「何に使ったか」が「パソコンの科目(消耗品費など)」などです。
複式簿記は「損益科目」だけでなく、「現金」などの資産や借入金など負債の「貸借科目」も記載する必要があります。
青色申告のメリットとデメリットをまとめると次のとおりです。
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メリット |
デメリット |
事前準備 |
|
必要なので手間 |
日々の取引の帳簿付け |
|
複式簿記なので難しい |
青色申告の特典 |
あり ①青色申告特別控除 ②青色事業専従者給与 ③貸倒引当金 ④損失の繰り越し ⑤少額減価償却資産の特例 |
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今まで、白色申告と青色申告それぞれのメリット・デメリットを見てきました。
では、どちらが得なのでしょうか。白色申告と青色申告それぞれのメリット・デメリットを1つにまとめると、次のようになります。
白色申告と青色申告の違い
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白色申告 |
青色申告 |
事前の申請 |
不要 |
必要 |
所得 |
すべての所得 |
不動産所得・事業所得・(山林所得) |
帳簿の記帳方法 |
単式簿記 |
複式簿記(10万円控除は単式簿記) |
会計処理 |
発生主義 |
発生主義 |
帳簿の保存義務 |
あり |
あり |
青色申告の特典 |
なし |
あり |
白色申告と青色申告の最も大きな違いは、青色申告特別控除です。
見てきた通り、青色申告をするだけで10万円または65万円の控除がもらえます。
では、それぞれで納める税金はどのように違うのでしょうか。具体例をもとに見ていきましょう。
例)売上3,000万円 経費2,500万円の場合
※わかりやすくするために基礎控除や配偶者控除などの所得控除は0円、税額は「所得金額×20%-427,500円」とします。
①白色申告の場合
【所得金額】3,000万円-2,500万円=500万円
【税額】500万円×20%-427,500円=572,500円
②青色申告10万円控除の場合
【所得金額】3,000万円-2,500万円-10万円=490万円
【税額】490万円×20%-427,500円=552,500円
③青色申告65万円控除の場合
【所得金額】3,000万円-2,500万円-65万円=435万円
【税額】435万円×20%-427,500円=442,500円
同じ売上と経費なのに白色申告と青色申告10万円控除とでは2万円、白色申告と青色申告65万円控除ではなんと13万円、青色申告をしたほうが税金が安くなるのです。
このように白色申告と青色申告では、青色申告のほうがお得です。中でも、青色申告65万円控除になると税金がかなり安くなります。
手続きや日々の帳簿付は白色申告や青色申告10万円控除よりは少しややこしいですが、毎年のことなので、慣れるとすぐにできるようになります。
会計ソフトなどを使って記帳をしている場合は、取引を入力すると複式簿記になり、また保存書類の要件も満たすため、65万円控除が使えるものも多くあります。ぜひ青色申告65万円控除をするようにしましょう。
また、先に少し触れましたが、白色申告と青色申告では保存書類に違いがあるため、こちらも注意が必要です。下記の表を参考にしてください。
保存が必要なもの | 保存期間 | |
帳簿 | 収入金額や必要経費を記載した帳簿 | 7 年 |
業務に関して作成した上記以外の帳簿 | 5 年 | |
書類 | 決算に関して作成した棚卸表その他の書類 | 5 年 |
業務に関して作成し、又は受領した請求書、納品書、送り状、 領収書などの書類 |
保存が必要なもの | 保存期間 | ||
帳簿 | 仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳など | 7年 | |
書類 | 決算関係書類 | 損益計算書、貸借対照表、棚卸表など | 7年 |
現金預金取引等関係書類 | 領収証、小切手控、預金通帳、借用証など | 7年 | |
その他の書類 | 取引に関して作成し、又は受領した上記以外の書類(請求書、見積書、契約書、納品書、送り状など) | 5年 |
以上、白色申告と青色申告の双方のメリット・デメリットをみていきました。
比べてみて見ると、白色申告をすることで得られるメリットは、青色申告をするのに必要な記帳の手間が必要ないという点のみです。
どのみち、基本的な帳簿付けは義務づけられているわけですので、それならば控除等の特別措置の認められる青色申告が勧められるのも納得ですね
あまり所得が多くなく、そもそも税額がそこまで大きくならないといった人であれば白色申告が気軽でいいのかもしれませんが、少しでも節税などを意識する人であれば断然青色申告の方がいいでしょう。
今は、小規模な個人経営者でも利用できる会計ソフトが数多くありますので、日々の経理処理も簡単にできるようになっています。
自分の事業規模や経済設計に合わせて選んで下さい。