ふるさと納税とは、地方自治体等に寄附をすることで所得税と住民税の税額控除を受けることができるという税制上の制度です。
各自治体の用意した多彩な謝礼品を控除を含めることで実質負担額が二千円で受けられるということで人気になった制度です。
このふるさと納税、これまでは個人を対象とした制度でしたが、法人にもふるさと納税が認められるという企業版ふるさと納税制度が平成28年度の税制改正において創設されました。
今回はこの企業版ふるさと納税、正式名称は地方創生応援税制といいます、について、個人所得税との比較を踏まえて以下において説明します。
まず最初に、従来の寄附制度から確認をしてみましょう。
法人が寄附をした場合には寄附金として会計上は費用項目に該当します。
ただし、税務上は全額が損金に計上できるとは限らず、損金算入限度額が定められています。
限度額を超える部分については損金への算入が認められず、法人税の課税対象となります。
そして、限度額の計算にあたっては、その寄附がどういった寄附なのか、寄附の対象から3つに分類され、それぞれの分類ごとに限度額の計算方法が異なります。
その3つの分類とは、①指定寄附金等、②特定公益増進法人等への寄附金、③一般の寄附金、の3つに分けることになります。
指定寄附金等とは、国や地方公共団体への寄附金、財務大臣の指定した寄附金のことを指します。
指定寄附金等に該当する寄附金については、その寄附額の全額が損金に算入されるため、損金算入限度額はありません。
特定公益増進法人等への寄附金とは、特定公益増進法人に対する寄附金、認定NPO法人に対する寄附金のことを指します。
特定公益増進法人等への寄附金に該当する場合には、損金算入限度額が定められており、限度額は下記算式により算定されます。
〔資本金等の額×当期の月数÷12×3.75÷1,000 + 所得の金額×6.25÷100〕×1/2
そして、算定の結果、損金に算入されなかった金額は、一般の寄附金の額に含まれ、改めて損金算入限度額との比較をすることになります。
一般の寄附金とは、①と②のいずれにも該当しない寄附金の全て、②の算定の結果損金に算入されなかった金額のことを指します。
一般の寄附金に該当する場合にも、損金算入限度額が定められており、限度額は下記算式により算定されます。
〔資本金等の額×当期の月数÷12×2.5÷1,000 + 所得の金額×2.5÷100〕×1/4
一般の寄附金に対する損金算入限度額の算定の結果、限度額を超える寄附を行なっていた場合には、その超える部分については損金には算入されず、法人税の課税対象となります。
法人が寄附をした場合には、このような制度に基づき寄附金の損金算入限度額が定められています。
ふるさと納税とは地方公共団体への寄附であるため、上記①の指定寄附金等に該当することになり、寄附の全額が損金に算入されることになります。
つまり、寄附をした金額のおよそ30%(法人税等のおおよその実効税率)の税額軽減効果となるのです。
こうした寄附の仕組みは以前からあり、社会貢献も兼ねた節税として行われていました。
そこから、さらに地方創生応援税制が制定されることになります。
平成28年度の税制改正において、地方創生応援税制、いわゆる企業版ふるさと納税が創設されました。
ふるさと納税とは地方公共団体への寄附を指すため、従来においても指定寄附金等として他の寄附に比べて優遇されていましたが、地方創生応援税制によりさらに優遇されることとなりました。
その優遇とは、従来の寄附金の損金算入に加え、税額控除がされることとなったのです。
事業税額の20%を限度として、支出した寄附の額の10%を事業税額から控除
〈道府県民税〉
道府県民税額の20%を限度として、支出した寄附の額の5%を道府県民税額から控除
〈市町村民税〉
市町村民税額の20%を限度として、支出した寄附の額の5%を市町村民税額から控除
なお、法人住民税から控除しきれない場合には、支出した寄附の額の10%を限度として、法人税から控除されることになります。
つまり、地方創生応援税制により寄附をした場合には、支出した寄附の額のおよそ30%が損金に算入され30%が税額控除されるため、最大で支出した寄附の額のおよそ60%までの税額軽減効果を得ることが可能となります。
このように、企業版ふるさと納税の場合には、個人におけるふるさと納税ほどの税額軽減効果を受けることはできません。
個人の場合には限度額の範囲内の寄附であれば、実質の負担額は2,000円で済むことになりますが、法人の場合には支出した寄附の額のおよそ40%は負担しなければならないことになります。
次に、地方創生応援税制の対象となるのはどういった寄附なのかについてみていきましょう。
青色申告書を提出する法人
<対象となる寄附の時期>
地域再生法の一部を改正する法律の施行日(平成28年4月20日)~平成32年3月31日
地域再生法第8条第1項に規定する認定地方公共団体に対して認定地方公共団体が行ったまち・ひと・しごと創生寄附活用事業に関連する寄附金
1回あたり10万円以上
⚫︎国税
控除の対象となる特定寄附金の額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類の添付があり、かつ、当該書類に記載された寄附金が特定寄附金に該当することを証する書類として財務省令で定める書類を保存
⚫︎地方税
控除の対象となる特定寄附金の額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した総務省令で定める書類並びに当該書類に記載された寄附金が特定寄附金に該当することを証する書類として総務省令で定める書類の添付
このように見ると個人のふるさと納税とは大きく仕組みが違っているのがわかります。
まず、対象となる寄附の額が10万円以上からという点が異なる点の1つです。
個人の場合には2,000円から始められるため非常に気軽ですが、法人の場合には大きなキャッシュアウトとなります。
そして、申告時における手続きにおいても個人の所得税との違い、さらには企業版では国税と地方税で異なるため注意しないといけません。
個人の場合には、原則として寄附を証する書類を確定申告書に添付をする必要があります。(平成28年分からは一定の手続きをすることで5団体以内の寄附である場合には申告が不要になります。)
所得税の申告の場合には源泉徴収票等のように添付書類があるということは一般的ですが、法人税の申告の場合には添付書類を要するということはほぼありません。
地方創生応援税制においても同様であり、国税の場合には明細書の作成で済み、寄附を証する書類は保管をすることで適用を受けることができます。
ただし、地方税においては添付することとされているため、申告書の提出時に併せて提出する必要があるため注意が必要になります。
そして地方創生応援税制がふるさと納税と違う大きな点としては寄附の対象について決まりがあるということです。
所得税、住民税におけるふるさと納税の対象と異なり、地方公共団体の中でも認定地方公共団体に対しての寄附でなければならない、と限定されているのです。
ふるさと納税の場合は、地方公共団体の方で個別のページを設け謝礼品の紹介などを行っていますのでわかりやすいですが、法人が地方創生応援税制を行いたい場合はどこに寄附するのかは特に注意しないといけません。
具体的には、下記については対象外とされます。
⚫︎地方交付税の不交付団体である都道府県
東京都
⚫︎地方交付税の不交付団体であって、その全域が地方拠点強化税制の支援対象外地域とされている市区町村
東京都23区、立川市、武蔵野市、三鷹市、府中市、調布市、小金井市、国分寺市、羽村市、瑞穂町
神奈川県鎌倉市、藤沢市、厚木市、寒川町
埼玉県戸田市、三芳町
千葉県市川市、浦安市
⚫︎法人の主たる事務所の所在する地方公共団体
東京などの特定の都や市区町村が対象外の他、法人の拠点のあるところも対象外とされています。
次にどういった流れで法人が地方創生応援税制の優遇を受けるまで行くのかを見てみましょう。
これも個人の場合と違って、地方公共団体側からの働きかけがスタートとなります
1.地方公共団体が「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」を企画立案し、企業に相談をし、寄附の見込みを立てます。
2.地方公共団体から相談を受けた企業は寄附を検討します。(※この時点では寄附の払い込みはしません。)
3.地方公共団体は「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」を地域再生計画として内閣府に申請します。
4.内閣府がこの事業を認定・公表し、地方公共団体もこれを公表します。企業はこれを見てから、「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」への寄附を検討することもできます。
5.地方公共団体は認定を受けた「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」を実施し、事業費を確定させます。
6.企業は、「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」への寄附の払い込みを行います。
7.寄附を受けた地方公共団体は、寄附をした企業に領収書を交付します。
8.企業は上記の領収書に基づいて地方公共団体や税務署に「地方創生応援税制」の適用があることを申告し、税制上の優遇措置を受けることになります。
上記のように、まず地方公共団体から「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」のプロジェクトを立案してそこから企業へ寄附の検討を働きかけます。
このプロジェクトが内閣府により認定を受けて、実際に寄付金の払い込みを行った企業が「地方創生応援税制」の適用ができることを税務署等に申告する流れとなっています。
個人のふるさと納税では、税額控除の他に利点として注目されているのが「お礼品」です。
米や肉、果物などその地域の特産品、マッサージや宿泊券・食事券などのチケット、ネックレスなどの服飾品、地域ごとに様々なお礼品を用意しています。
寄附をすることで税額控除を受けることができ、かつ、実質2,000円の負担のみでこれらのお礼品がもらえるため、どのようなお礼品をもらうかを楽しみにふるさと納税をする人は少なくないでしょう。
このような個人のふるさと納税に対し、法人の行う企業版ふるさと納税ではお礼品は原則ありません。
内閣府地方創生推進事務局が公表している資料(地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)活用の手引き)において、「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」へ寄附を行うことの代償として経済的な利益を受け取ることは禁止されている、と記載されているのです。
法人がふるさと納税を行った場合には、個人とは異なり税額軽減効果は支出した寄附の額のおよそ60%が限度となり、そしてお礼品も原則ありません。
個人のふるさと納税と比較するとメリットがだいぶ減ったような感じもしますが、
「社会貢献活動に企業が取り組んでいる」というアピールを地方公共団体の事業から発信できるというのが地方創生応援税制の1番の効果と考えられます。
なお、企業版ふるさと納税の場合には上記のように原則としてお礼品はありませんが、仮にお礼品を受け取った場合には、そのお礼品の価値に応じて受贈益として計上することとなります。
つまり、そのお礼品は法人税の課税対象となってしまいます。注意してください。