日々の仕事をすると、得意先や取引先と多くの取引をします。この取引を帳簿に記入していくことが簿記です
個人事業主であればこの帳簿を1年分まとめて、確定申告時に税額の計算と納税が必要になります。
白色申告者でも青色申告者でも現在は帳簿付けと保管は必須とされていますが、確定申告の為だけでなく自分の事業の状態をちゃんと把握するのにも帳簿の付け方・見方を知っておくほうがいいです。
簿記、つまり帳簿付けの方法には、単式簿記と複式簿記の2つの方法があります。所得税の確定申告において、「白色申告」と「青色申告10万円控除」では単式簿記で、「青色申告65万円控除」では複式簿記で帳簿付けをします。
ここでは、その単式簿記と複式簿記の違いを解説します。
単式簿記とは、お金が動いた目的のみを記載する方法です。帳簿には「何が入金されたか」「何に使ったか」を記載します。
例)1月15日にA商店に商品350,000円を現金で販売した
2月2日にB商店から仕入商品650,000円を現金で買った
3月20日にパソコン90,000円を現金で買った
3月10日にごみ袋800円を現金で買った
この場合、「どのようなお金が入金されたか」または「お金を何に使ったか」が重要のため、入金または使った科目のみ記載します。
日付 |
勘定科目 |
金額 |
摘要 |
1月15日 |
売上高 |
350,000円 |
A商店 |
2月2日 |
仕入高 |
650,000円 |
B商店 |
3月20日 |
消耗品費 |
90,000円 |
パソコン |
3月10日 |
雑費 |
800円 |
ごみ袋 |
つまり売上や経費などの損益の科目のみを記載する方法です。現金などの資産や負債科目は記載しません。お小遣帳や家計簿などが単式簿記にあたります。
複式簿記は「お金を何に使ったのか」だけでなく「どのような手段でお金を払ったのか」をきちんと記帳する処理方法です。つまり何の目的でお金が動き、そのお金がどんな取引手段(現金や普通預金など)を使っているのかを記帳します。
例)1月9日にA商店に商品400,000円を現金で販売した
2月20日にB商店から仕入商品200,000円を普通預金で買った
3月31日に本棚80,000円を現金で買った
4月12日に水道代5,800円を普通預金で支払った
日付 |
借方科目 |
金額 |
貸方科目 |
金額 |
摘要 |
1月9日 |
現金 |
400,000円 |
売上高 |
400,000円 |
A商店 |
2月20日 |
仕入高 |
200,000円 |
普通預金 |
200,000円 |
B商店 |
3月31日 |
消耗品費 |
80,000円 |
現金 |
80,000円 |
本棚 |
4月12日 |
水道光熱費 |
5,800円 |
普通預金 |
5,800円 |
水道代 |
複式簿記は、売上や仕入などの損益の科目だけでなく、現金などの資産や借入金などの負債の科目も記載します。
複式簿記では、どのような内容を記載するか決まっています。
・いつ…取引の年月日
・誰に…売上先や仕入先などの名称
・何を…販売や購入した商品名など
・何を使って…現金や普通預金などの取引手段
・いくらで…その金額
さらに、「勘定科目」を使って「仕訳」したものを記帳するというルールがあります。そのため、複式簿記で帳簿付けするためには勘定科目や仕訳を知る必要があります。以下、勘定科目や仕訳について解説します。
帳簿を見たときに、簿記の知識があるすべての人が分かるように作られた取引の表示名称のことを「勘定科目」といいます。例えば、水道代は「水道光熱費」という勘定科目を使います。勘定科目は「資産」「負債」「純資産(資本)」「費用」「収益」の5つに大きく分かれます。
青色申告の場合、青色申告決算書1ページ目の「損益計算書」には費用と収益の勘定科目が、4ページ目の「貸借対照表」には資産、負債、純資産(資本)の科目が記載されます。
では、それぞれの分類がどのようなものか見ていきましょう。
資産とは簡単にいうと会社にある、または事業として使っている財産のことです。事業用の現金や普通預金などのお金、土地や建物などの固定資産といった形があるものだけでなく、売掛金や未収金など後からお金をもらうことができる権利も、形はありませんが資産になります。
負債とは簡単にいうと借金のことです。後にお金を払う義務があるものが負債です。借入金や未払金、買掛金などが負債になります。
純資産(資本)とは個人事業主の場合、事業を始めるためにかかった元手と、開業してから今までの利益の累計額を合計したものです。元入金などが純資産(資本)になります。
事業にかかった経費のことです。仕入や家賃、水道光熱費などが費用になります。お金の支払い=費用というわけではなく、商品の引き渡しやサービスを受けたら代金が未払いでも費用になること、逆に支払済でも、商品の引き渡しやサービスを受けていなければ経費にならないことに注意してください。
収益とは、売上などのように会社の財産を増やすものです。こちらも費用と同様に、お金の受け取り=収益というわけではなく、商品の引き渡しやサービスをおこなったら代金が未収でも収益になること、逆に領収済でも、商品の引き渡しやサービスをおこなっていなければ収益にならないことに注意してください。
複式簿記は、簡単に言うと「何のために」「どのような手段で」お金が動いたのかをきちんと記帳する処理方法です。そのため1つの取引に対して、勘定科目を2つ使って帳簿付けします。これを仕訳といいます。帳簿の左側を「借方」と右側を「貸方」といいますが、2つの科目をそれぞれに割り当てます。借方と貸方のルールは以下のとおりです。
区分 |
その区分の科目が借方に来たら? |
その区分の科目が貸方に来たら? |
資産 |
増加 |
減少 |
負債 |
減少 |
増加 |
純資産(資本) |
減少 |
増加 |
収益 |
減少 |
増加 |
費用 |
増加 |
減少 |
その区分の科目が帳簿のどちらに来ると残高が増加するのか、あるいは減少するのかをまとめました。こちらの表を参考に仕訳してみましょう。
例)現金を普通預金から10,000円引き出した。
現金も普通預金も「資産」の区分の科目です。この取引では「現金=手持ちのお金」は増加しているので「借方」へ、普通預金は減少しているので「貸方」へ記入します。この取引を仕訳すると以下のようになります。
借方科目 |
金額 |
貸方科目 |
金額 |
摘要 |
現金 |
10,000円 |
普通預金 |
10,000円 |
現金引き出し |
以下は個人事業主がよく使う科目の一覧です。上の「借方と貸方のルール」と合わせて理解し、複式簿記の仕訳をできるようになりましょう。
勘定科目名 |
概要 |
現金 |
事業用の現金が動いたときに使う科目。個人用の現金はこの勘定科目を使わない。 |
普通預金 |
銀行の普通口座に預けているお金が動いたときに使う科目。通常通帳がある。こちらも個人用の通帳は含まない。 |
売掛金 |
商品の引き渡しは終わっているが、代金が未回収であるときに使う科目。 |
前払金 |
代金の支払いは終わっているが、商品が未回収であるときに使う科目。 |
工具器具備品 |
1つあたり10万円以上のパソコン、コピー機、応接セット、看板などを購入したときに使う科目。 |
車両運搬具 |
事業用の車を購入したときに使う科目。 |
開業費 |
開業のためにかかった費用。一度に経費にせず、毎年少しずつ経費にするため、いったん資産にする。 |
事業主貸 |
事業用のお金を生活費として引き出したり、私的に使用したときの科目。 |
勘定科目名 |
概要 |
買掛金 |
商品は届いているが、代金が未払いなときに使う科目 |
未払金 |
仕入以外の経費や資産の購入で、代金が未払いなときに使う科目 |
借入金 |
事業用の資金を借りたときに使う科目。事業と関係ない住宅借入金などはこの科目は使わない |
前受金 |
代金の回収は終わっているが、商品をまだ渡していないときに使う科目 |
預り金 |
一時的にお金を預かったときに使う科目 |
事業主借 |
個人用のお金を事業用の通帳に預け入れたり、経費の支払いに使用したときの科目 |
勘定科目名 |
概要 |
元入金 |
事業を始めるためにかかった元手と、開業してから今までの利益の累計額を合計したもの。 |
勘定科目名 |
概要 |
売上高 |
商品の販売やサービスの提供など事業所得(本業)となる収入。 |
勘定科目名 |
概要 |
仕入高 |
販売する本業の商品などを購入したときに使う科目。 |
租税公課 |
事業に関係のある税金(事業税や消費税、印紙代、店舗の固定資産税、自動車税など)を支払ったときに使う科目。 |
水道光熱費 |
事業に関係のある電気代、ガス代、水道代を支払ったときに使う科目。 |
旅費交通費 |
電車代やバス代、高速道路通行料などの交通にかかる経費。 |
通信費 |
電話や携帯電話の通信料、インターネット代、切手やはがき代。 |
広告宣伝費 |
広告掲載料など、お店等の広告に使った費用。 |
接待交際費 |
取引先との飲食代やお中元・お歳暮など取引先への接待などに使った費用。法人とは違い上限は決められていない。 |
修繕費 |
20万円未満か、おおむね三年周期に行う修理代。 |
消耗品費 |
購入代金が1つあたり10万円未満のものの購入費。 |
福利厚生費 |
従業員に対する残業食事代などの厚生費用。従業員がいない場合は原則この科目は使いません。 |
地代家賃 |
店舗や事務所、駐車場などを月極や年払いで支払ったときの費用。 |
給料賃金 |
従業員のお給料。家族に対するものは含めない。 |
雑費 |
上記以外のもろもろの経費。 |
以上、単式簿記と複式簿記の違いについて見てきました。
単式簿記はお金が動いた原因だけを帳簿付けすればいいのですが、複式簿記はお金が動いた原因だけでなく、どのような手段でお金を動かしたのかをきちんと帳簿付けしなければなりません。
そのため、それぞれの勘定科目について借方、貸方のどちらにきたらどうなるのかを理解した上で、帳簿付けをする必要があります。
複式簿記で記帳するのは複雑ですが、青色申告の65万円控除を受けられるので、かなり節税になります。
仮に税率を10%とすると、1年で6万5千円も節税になります。しかも複式簿記を続けている限り、その恩恵が毎年受けられるのです。
今回記載した「借方と貸方のルール」と「勘定科目一覧」は複式簿記で帳簿付けをするのに、お役に立てると思います。
最初はこの表を参考にしながら、複式簿記の帳簿付けをしてみましょう。慣れれば簡単に帳簿付けができるようになりますよ。