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フリーランス・個人事業主が理解しておきたい「固定資産」「減価償却」についての詳細解説

◆減価償却はフリーランスには関係ない?

帳簿付けや確定申告をしていると固定資産や減価償却といった言葉を目にするかと思います。

フリーランスや個人事業主の人の中にはそういうのは飲食店や大きな機械を使う製造業の人に関係するものであって

自分に関係はないとお思いの方もいるかもしれません。

 

しかし、減価償却での経費処理が必要となる固定資産というのは10万円以上のものです。

10万円でしたらパソコンの新調などでも容易に届く範囲ですね。

そこでフリーランスや個人事業主にも関わりの深い固定資産や減価償却について詳しく解説します。

取得価額の出し方や、耐用年数の一覧、実際の減価償却費の算出方法などを紹介していきます。

 

押さえておきたいポイントは

固定資産とは購入金額が10万円以上で、複数年使用するもの

・固定資産の費用を数年に渡って少しずつ経費として処理するのが減価償却

・固定資産には種類によって費目が設定されている

・減価償却をするには「取得価額」、「耐用年数と償却率」、「償却方法」の3つ要素が必要

・取得価額は購入金額に運送費や、設置工事料なども含めた金額のこと

・耐用年数と償却率はあらかじめ決まっている

・償却方法で主に使用するのはは「定額法」「定率法」

・個人事業主・フリーランスが一般的に使う方法は「定額法」

・30万円未満のものを全額経費にできる「少額減価償却資産の特例」がある

・「少額減価償却資産の特例」を受けられるのは青色申告者だけ

・10〜20万円未満のものを3年間で均等償却できる「一括償却資産の特例」がある

・特例を利用すれば多くの経費を計上できるのでその分節税できる

・固定資産の価額が消費税を含めるかどうかは消費税を納めているかどうかによる

・消費税の免税事業者または課税事業者で税込処理の場合は「税込金額」で処理

・消費税の課税事業者で税抜処理の場合は「税抜金額」で処理

 

これらの点を中心に詳しく解説していきますので、固定資産や減価償却についてちゃんと知っておきましょう。

 

◆そもそも固定資産とは?

1つあたりの購入金額が10万円以上のもので、複数年にわたって使用するものを「固定資産」と呼びます。

では固定資産と普通の経費はどう違うのでしょうか。

 

一番の違いは経費になる時期です。

普通の経費は商品を購入したときに経費にすることができます。

しかし、固定資産になると商品を購入したときには、購入金額の全額を経費にすることができません。

 

固定資産は複数年にわたって使用するため、複数年にわたってちょっとずつ経費にすべきという考えがあるからです。

複数年にわたって経費にすることを「減価償却」といい、その経費のことを「減価償却費」と言います。

 

※販売するための仕入商品はたとえ10万円以上のものであっても、固定資産にはなりません。「仕入高」で処理します。

 

 

◆固定資産の種類

1つあたりの購入金額が10万円以上のもので、複数年にわたって使用するものは固定資産になりますが、帳簿には固定資産とは記入しません。

購入した物の種類によってそれぞれの固定資産の勘定科目名が決まっています。ここではその代表的なものを紹介します。

 

①建物

新築や購入した工場や店舗などです。

 

②(建物)付属設備

建物に対する工事です。電気設備の工事や給排水工事などが該当します。

本や会計ソフトによって勘定科目名が「建物付属設備」となっているものと「付属設備」となっているものがありますが、どちらでも構いません。

 

③構築物

居住や滞在する目的以外で作られた建造物のことで、トンネルや大きめの看板などが

該当します。

 

④車両運搬具

事業用の車です。乗用車以外に、貨物自動車やダンプカーも該当します。

 

⑤工具器具備品

厳密に言うと、金型やロールなどの「工具」と机・椅子やパソコンなどの「器具及び備品」に分かれますが、通常は「工具器具備品」で処理します。

本や会計ソフトによっては「什器備品」となっている場合もあります。

 

⑥機械装置

主に鉄鋼や金属などの製品を製造するための設備です。太陽光設備なども機械装置に

該当します。

 

 

◆減価償却費の計算

ここからは減価償却費の計算方法を見ていきましょう。

減価償却をするためには「取得価額」、「耐用年数と償却率」、「償却方法」の3つが必要です。

それぞれ確認しましょう。

 

①取得価額

取得価額とは、減価償却費の計算の基礎になる金額のことをいいます。

ここで購入価額とせずに「取得価額」としたのは、購入価額と取得価額は異なるからです。

取得価額とは、購入価額と購入にかかった費用(付随費用)を足した金額のことです。

固定資産を運ぶ運賃や、固定資産を据え付けた費用などは、取得価額に含める必要があります。

 

②耐用年数と償却率

取得価額が決まったら耐用年数と償却率を調べます。

耐用年数は経費にしていく年数のことで、固定資産の種類ごとであらかじめ決まっています。

償却率は減価償却費を計算するときに使う割合のことです。後でご紹介する償却方法と耐用年数によって、償却率もあらかじめ決まっています。

 

・耐用年数

フリーランスや個人事業主が使う、主な耐用年数は以下のとおりです。

<建物>

細目

構造

耐用年数

事務所

(鉄骨)鉄筋コンクリート造

50年

れんが・石・ブロック造

41年

金属造 骨格材の肉厚4ミリ超

38年

金属造 骨格材の肉厚3ミリ超4ミリ以下

30年

金属造 骨格材の肉厚3ミリ以下

22年

木造又は合成樹脂造

24年

木骨モルタル造

22年

店舗

(鉄骨)鉄筋コンクリート造

39年

れんが・石・ブロック造

38年

金属造 骨格材の肉厚4ミリ超

34年

金属造 骨格材の肉厚3ミリ超4ミリ以下

27年

金属造 骨格材の肉厚3ミリ以下

19年

木造又は合成樹脂造

22年

木骨モルタル造

20年

※構造については、売買契約書または登記簿謄本に記載されています。そちらでご確認ください。

 

<建物付属設備>

用途

耐用年数

電気設備工事

15年

給排水工事

15年

ガス設備工事

15年

エレベーター

17年

間仕切り

簡易なもの3年、その他15年

 

<構築物>

用途

耐用年数

広告用のもの

金属造20年、その他10年

舗装道路

コンクリート15年、アスファルト10年

 

<車両運搬具>

用途

耐用年数

乗用車

小型車(総排気量0.66ℓ以下)

4年

乗用車 上記以外

6年

貨物車(トラックなど)

積送量2t以下

3年

貨物車 上記以外

4年

 

<工具器具備品>

用途

耐用年数

事務机・いす

金属製15年・その他8年

応接セット

接客用5年・その他8年

陳列棚

冷凍・冷蔵付き6年 その他8年

その他家具

金属製15年、その他8年

パソコン

4年

コピー機

5年

 

<機械装置>

用途

耐用年数

太陽光設備

15年

※あくまで一般的な耐用年数となります。

 

・償却率

耐用年数がわかったら、償却率表にあてはめ償却率を求めます。

償却方法には「定額法」と「定率法」の2種類があり、それぞれ償却率が異なります。

それぞれの方法と耐用年数によって償却率を求めましょう。

 

使用すべき償却率は国税庁のサイトにもまとめてありますので参照して下さい。

出典元:国税庁 「平成28年分 青色申告決算書(一般用)の書き方 P5」

http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinkoku/shotoku/tebiki2016/pdf/33.pdf

 

 

・償却方法

取得価額が決まったら、次は償却方法を選びます。

償却方法とはいうのはどのように減価償却費を計算するかという計算方法で、「定額法」と「定率法」があります。

 

原則、フリーランスや個人事業主は「定額法」で計算します。

「定率法」を使えるのはあらかじめ税務署にその旨の届け出を出して認めてもらったときだけです。

建物、建物付属設備、構築物は必ず「定額法」です。届け出を出しても「定率法」は使えません。

 

①定額法

定額法とは簡単にいうと、毎年同じ金額の減価償却費を計上する方法です。

定額法の基本的な考え方は、取得価額を耐用年数で割り求めた金額がその年度の減価償却費になります。

式でいうと以下のようになります。

(取得原価-残存価額)/耐用年数 = 減価償却費

簿記の本などではこの計算方法が載っている場合があります。

 

 

しかし、実際は取得価額に定額法の償却率をかけてその年度の減価償却費を計算します。

基本的な考え方と実際の計算方法では、差額が出る場合もありますので注意が必要です。

 

【例】

取得価額 2,200,000円 耐用年数11年(償却率0.091)の場合

基本の考え方 取得価額 2,200,000円÷耐用年数11年=200,000円

実務上の計算 取得価額 2,200,000円×償却率0.091=200,200円

 

②定率法

定率法は定額法とは異なり毎年の減価償却費は同じ金額になりません。

購入した1年目に一番多くの減価償却費の金額になり、2年目以降少しずつ減価償却費の金額が減少していく方法です。

 

定率法は取得価額ではなく、期首の帳簿価額(取得価額から前年度までの減価償却費の額の累計額を差し引いた金額)をもとに

その年度の減価償却費を計算する方法です。帳簿価額に定率法の償却率をかけてその年度の減価償却費を算出します。

 

【例】

取得価額 2,200,000円 耐用年数11年(償却率0.182)の場合

1年目

減価償却費

2,200,000円×償却率0.182=400,400円

翌期首帳簿価額

2,200,000円-400,400円=1,799,600円

 

2年目

減価償却費

1,799,600円×償却率0.182=327,528円

翌期首帳簿価額

1,799,600円-327,528円=1,472,072円

 

3年目

減価償却費

1,472,072円×償却率0.182=267,918円

翌期首帳簿価額

1,472,072円-267,918円=1,204,154円

 

期首の帳簿価額は毎年小さくなります。そのため減価償却費は毎年小さくなります。

 

定額法も定率法も償却率を使って計算しますが、定額法は「取得価額」、定率法は「帳簿価額」をもとに計算します。

1円未満の端数についての取り扱いは税法で明確に決まっていません。

そのため処理方法は自由に選べます。個人事業主の場合、一般的には1円未満切り上げで計算します。

(法人は切り捨てが一般的です。)

 

このように減価償却費は、①取得価額を求め、②耐用年数と償却率を確認し、③定額法または定率法を使って計算します。

※減価償却は残存価額1円まで償却できます。残存価額は、償却期間が終わっても持っている以上は1円の価値はあるというものです。

 

 

◆減価償却の特例

これまで「1つあたりの購入金額が10万円以上のものは固定資産にして減価償却する」というルールのもと、減価償却の方法を見てきました。

この減価償却、実は2つの特例があります。

状況に応じて特例を選択した方が得な場合も多々あります。

ここではその2つの減価償却の特例を見ていきましょう。

 

①少額減価償却資産の特例

年間300万円までという上限がありますが、1つあたりの購入金額が30万円未満の場合は一定の条件のもと、その購入金額の全額を経費にすることができます。

黒字が出る場合はこの特例を使った方が節税になります。一定の条件は次のとおりです。

 

条件1 一旦、固定資産として計上して「減価償却費」として全額を経費にすること

    購入金額の全額が経費になるからといって購入時の仕訳で、「消耗品費」などの経費にしてはいけません。

          「工具器具備品」などの固定資産の科目で一旦仕訳し、「減価償却費」として全額を経費にします。

 

仕訳例は次のとおりです。

例)28万円のパソコンを事業用の現金で購入した。

・購入時の仕訳

借方勘定科目

借方金額

貸方勘定科目

貸方金額

摘要

工具器具備品

280,000円

現金

280,000円

パソコン代

 

 

 

 

 

・決算時の仕訳

借方勘定科目

借方金額

貸方勘定科目

貸方金額

摘要

減価償却費

280,000円

工具器具備品

280,000円

当期償却額

 

 

 

 

 

 

条件2 青色申告決算書の3ページ 「減価償却費の計算」欄に取得価額の合計額と

    「措法28の2」と記載していること

    必ず摘要欄に「措法28の2」と記載してください。

 

国税庁のサイトには申告時の記載例が紹介してありますので参照して下さい。

出典元:国税庁 「平成28年分 青色申告決算書(一般用)の書き方 P4」 

http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinkoku/shotoku/tebiki2016/pdf/33.pdf

 

条件3 その固定資産の明細のわかるものを保管していること

    30万円未満の資産が複数ある場合は別で明細を保管します。

    青色申告決算書の3ページに1つずつ記載して控えを保管してもOKです。

 

条件4 青色申告をしていること

    白色申告ではこの特例を受けることができません。

※この特例は期間が決まっています。平成30年3月31日までに取得したものが対象です。

 

②一括償却資産の特例

1つあたりの購入金額が10万円以上20万円未満のものは、その耐用年数にかかわらず3年間で均等に償却することができます。

これを「一括償却資産」といいます。

 

例えば、18万円のパソコンだと

・通常の減価償却費

耐用年数4年 1年あたりの減価償却費は 180,000円×0.250=45,000円

 

・一括償却資産

3年間で均等償却 1年あたりの減価償却費は 180,000円×1/3=60,000円

 

となり、一括償却資産のほうが、15,000円経費が増えます。

 

この一括償却資産の特例は白色申告でも適用可能です。

青色申告の人は少額減価償却資産の特例を、白色申告の人は一括償却資産の特例を選択した方が節税になります。

 

 

◆固定資産と消費税の経理処理の関係

固定資産になる基準の10万円、一括償却資産の基準20万円、少額減価償却資産の30万円。

この金額は消費税込の金額なのか、それとも抜きの金額なのかという疑問が出てくるかと思います。

これは消費税の経理処理によります。

 

消費税の免税事業者または課税事業者で税込処理の場合は、「税込金額」になります。

消費税の課税事業者で税抜処理の場合は、「税抜金額」になります。

 

つまり税込107,000円のものを購入した場合、

消費税の免税事業者または課税事業者で税込処理の場合は10万円以上なので「固定資産」

消費税の課税事業者で税抜処理の場合は、税抜金額99,074円で10万円未満なので「消耗品費」の経費で処理できます。

固定資産だけを考えると税抜処理のほうが得になります。

 

固定資産や減価償却は、フリーランスや個人事業主にとっても重要なものです。

その年の利益や税額にも影響します。まずは、固定資産や減価償却とは何か、またその計算方法について理解しましょう。

 

減価償却には2つの特例もあります。

その年が黒字になるのか赤字になるのかなどの状況によって特例を選択することも考えながら、賢く確定申告を行いましょう。