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個人事業主も理解しておきたい社会保険制度の解説

社会保険制度というと法人の経営者とそこに雇用される会社員・サラリーマンが主な対象だと思われる方も多いかと思います。

ですが個人事業主も無関係ではありません。

年金制度や、国民健康保険も社会保険制度の一部です。

 

そもそも社会保険制度は、病気やけが、失業などで生活を維持できなくなることを防ぐために、

従業員またはその雇用主が一定の負担をして相互に助け合う制度です。

 

個人事業主とサラリーマンとでは適用や保険支払いの仕組みが少々違うだけです。

事業主であれば従業員を雇うようになったら特に他人事ではありません。

雇用主としての加入の義務も発生します。

 

ひとくちに社会保険制度といってもいろいろな種類の保険制度があり、すべてを把握するのはなかなか簡単ではありません。

そこでここでは社会保険制度について詳しく解説します。

 

◆社会保険制度の種類

日本は社会保険制度が世界的に見ても充実しています。

社会保険制度は以下の5つ

  • 医療保険(健康保険)
  • 年金保険
  • 介護保険
  • 雇用保険
  • 労災保険

これらの保険から成り立っています。

この5つの保険すべてが、個人事業主と関係します。そのため、それぞれがどのような制度なのか知っておく必要があります。

 

まず社会保険について、個人事業主とサラリーマン(給与所得者)の違いを表にまとめました。

               

 

個人事業主

サラリーマン(給与所得者)

医療保険

(健康保険)

・全額自己負担

・世帯収入に対してかかる

・納付書や口座振替などで支払い

・負担額を会社と折半

・給料の額に応じてかかる

・給料から天引き

・扶養の考えあり

年金保険

・国民年金

・全額自己負担

・毎月一定金額の支払い

・納付書や口座振替などで支払い

・厚生年金

・負担額を会社と折半

・給料の額に応じてかかる

・給料から天引き

介護保険

・全額自己負担

・国民健康保険と一緒に支払う

・65歳以上は年金から天引き

・負担額を会社と折半

・給料の額に応じてかかる

・給料から天引き

雇用保険

・自分自身の加入不可

・負担額を一定の割合で会社と従業員で負担

・給料から天引き

労災保険

・自分自身の加入不可

・会社が全額負担

 

それでは、5つの保険の概要を見ていきましょう。

 

◆医療保険

医療保険とは健康保険のことです。日本でいちばん利用されている社会保険制度といっていいでしょう。

毎月、健康保険料を支払うことにより、病気やけがなどで病院を受診した際、7割を健康保険組合が支払う(自己負担3割)制度です。

健康保険には2種類あります。サラリーマン(給与所得者)が加入する健康保険、と個人事業主が加入する国民健康保険です。この2つの違いを見てみましょう。

 

・サラリーマン(給与所得者)が加入する健康保険

この保険は毎月の掛け金を原則で、雇用主と従業員が半分ずつ負担します。

また、扶養という考えがあります。従業員の家族のうち、一定金額以下の収入の人は保険料を負担する必要がありません。

 

・個人事業主が加入する国民健康保険

この保険は、毎月の掛け金を全額自分で支払います。

また、国民健康保険はその世帯が加入するという考えなので、そもそも扶養という考えはなく、世帯収入全体に対して保険料がかけられます

 

◆年金保険

こちらも健康保険と同じく広く知られている制度です。

一定期間掛金を支払うことを条件に、定年退職後、あるいは怪我や病気などで働けなくなったときに、生活を保障するための保険制度です。

大きく分けてサラリーマン(給与所得者)が加入する厚生年金と、個人事業主が加入する国民年金の2つがあります。

現在の年金保険制度は2階建て(基金などを入れると3階建て)で、誰もが国民年金に加入し、その上に厚生年金があります。

つまりサラリーマン(給与所得者)は厚生年金を支払うと、国民年金も支払っていることになります。厚生年金と国民年金にも違いがあります。

 

・サラリーマン(給与所得者)が加入する厚生年金

厚生年金は毎月の掛け金を原則、雇用主と従業員が半分ずつ負担します。

また毎月の掛け金の金額は、お給料の金額に比例して高くなります。

 

・個人事業主が加入する国民年金

国民年金は、毎月の掛け金を全額自分で支払います。

また収入に関係なく、決まった額の掛け金を毎月支払います

 

◆介護保険

介護保険とは、高齢者に係る介護の負担を社会全体で支えようという制度です。

原則40歳以上の人は毎月の掛金を支払わなければいけません。

介護保険の毎月の支払方法は、サラリーマン(給与所得者)か個人事業主かの違いや年齢によって異なります。

 

・40歳以上65歳未満の場合

40歳以上65歳未満の場合は、加入している健康保険と一緒に支払います

サラリーマン(給与所得者)の場合は、健康保険と同じくお給料や賞与から天引きされます。

会社と従業員で負担額を折半します。

 

個人事業主の場合は、40歳以上の世帯全員分の介護保険料を国民健康保険と一緒に支払います。

 

・65歳以上の場合

こちらは年金受給者と年金未受給者により支払方法が異なります。

年金受給者の場合は、その年金からあらかじめ介護保険料が差し引かれて、年金が入金されます。

年金未受給者の場合は、納付書で支払うか、口座振替で支払います。

年金受給者と年金未受給者で支払い方法が異なるため、年の途中で年金を受給するようになった場合は注意しましょう。

 

◆雇用保険

雇用保険とは、雇用されている人を守るための保険制度です。

従業員がさまざまな理由で勤めていた会社を辞めたときに、次の就職先が見つかるまでの生活を保障することを目的とした保険制度です。

従業員のための保険のため、雇い主である会社の役員や個人事業主は加入することができません。

雇用保険は、会社とサラリーマン(給与所得者)が一定の割合ずつ負担します。通常は、毎月の給料や賞与などから天引きされて支払います。

 

◆労災保険

労災保険も雇用保険と同じく、雇用されている人を守るための保険制度です。

従業員が仕事中や通勤途中に怪我や病気をしたり、死亡したりしたときに、その保障をする制度です。

今までの社会保険と違っているのは、会社が全額負担するということ。従業員が支払うことはありません。

その会社の従業員の給料の合計額や仕事内容などにより、会社が支払う労災保険の金額が決まります。

 

労災保険は原則雇い主である会社の役員や個人事業主は加入することができません。

しかし、「特別加入」の制度があり、1人親方や中小企業の役員等が任意で労災保険に加入できるようになっています。

特別加入には業種が限定されていて、

  1. 自動車を使用して行う旅客または貨物の運送の事業(個人タクシー業者や個人 貨物運送業者など)
  2.  土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、原状回復、修理、変更、 破壊もしくは、解体またはその準備の事業(大工、左官、とび職人など)
  3.  医薬品の配置販売(医薬品医療機器等法第30条の許可を受けて行う医薬品の配置販売業)の事業
  4.  林業(立木の伐採、造林、木炭又は薪を生産、その他林業を行うもの)
  5.  医薬品の配置販売を行う者(薬事法第30条の認可を受けて行う医薬品配置販売を行うものに限られる)
  6.  再生利用の目的となる廃棄物などの収集、運搬、選別、解体などの事業
  7.  船員法第一条に規定する船員が行う事業

が労災の特別加入が認められている業種です。

 

5つ社会保険制度はのその性格により、「医療保険(健康保険)」「年金保険」「介護保険」の3つを「社会保険」、「雇用保険」「労災保険」を「労働保険」と呼ぶことがあります。

 

◆個人事業主が従業員を雇い入れた時の手続き

今までは、社会保険の概要や個人事業主本人とサラリーマン(給与所得者)との社会保険の違いについて見てきました。

では、個人事業主が従業員を雇い入れ、雇用主になった場合、社会保険に関してどのような手続きが必要なのでしょうか。

ここからは従業員を雇い入れたときの手続きについて見ていきましょう。

 

◎健康保険、厚生年金

初めて従業員を雇い入れたときの手続きの流れは、以下のとおりです。

個人事業の事業所が社会保険の適用事業所かどうかを判断する

②適用事業所の届け出を提出する

③従業員の資格取得届を提出する

 

以下、順に説明します。

①個人事業の事業所が健康保険・厚生年金の適用事業所かどうかを判断する

適用事業所とは、健康保険と厚生年金に加入しなければならない会社のことです。

法人の場合は、すべての会社が適用事業所です。

個人事業主は、常時5人以上の従業員がいる場合、適用事業所に該当します

つまり従業員が5人未満の場合は、健康保険と厚生年金に加入しなくて良いことになります。

この場合も任意で加入することはできます

 

②適用事業所の届け出を提出する

常時5人以上の従業員がいる場合は、従業員が5人以上になった日から5日以内に、

事業主の世帯全員の住民票を添付の上、「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を年金事務所に提出します。

 

③従業員の資格取得届を提出する

事業所が健康保険・厚生年金に加入したら、次は従業員が健康保険・厚生年金に加入する届出書を提出します。

従業員を雇い入れた日から5日以内に、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を年金事務所に提出します。

次回従業員を雇い入れしたときは、③の手続きだけを行います。

 

◎雇用保険、労災保険

初めて従業員を雇い入れたときの手続きの流れは少し複雑で、

労働基準監督署又は労働局に必要書類を提出し、その後ハローワークに必要処理を提出する必要があります。

また、健康保険、厚生年金と違い、1人でも従業員がいると手続きをする必要があります

 

①開業日、または保険関係の成立後10日以内に、労働基準監督署か労働局に住民票を添付の上「(労働)保険関係成立届」を提出します。

 

②「(労働)保険関係成立届」の提出と同時、またはそのあとに労働基準監督署か労働局に「概算保険料申告書」を提出し、概算保険料の支払いをします。

 

③ハローワークに「雇用保険適用事業所設置届」を提出します。添付書類は、出勤簿、労働者名簿、賃金台帳、源泉徴収簿などです。必ず、①の「(労働)保険関係成立届」を提出した後で届け出しましょう。

 

④最後に「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークに提出します。

添付書類は、賃金台帳、労働者名簿、出勤簿(タイムカード)、他の社会保険の資格取得関係書類、雇用期間を確認できる資料(雇用契約書等)などです。

この書類の提出期限は従業員を雇い入れた日から10日以内です。

 

①~④までそれぞれ提出期限がありますが、

最後に提出する「雇用保険被保険者資格取得届」の期限が従業員を雇い入れた日から10日以内のため、その日までにすべての手続きをする必要があります。

※添付書類は、雇用関係や事業の形態などで異なることがあります。必ず提出前に労働基準監督署やハローワークに確認するようにしてください。

 

今回は個人事業主と社会保険制度について見てきました。

社会保険は「医療保険(健康保険)」「年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」の5つの保険から成り立っています。

それぞれの保険について、支払方法や金額など個人事業主とサラリーマン(給与所得者)で異なるので注意しましょう。

また、個人事業主が従業員を雇い入れ、雇用主になった場合は「健康保険・厚生年金」と「雇用保険・労災保険」の手続きをする必要があります。

手続きの順番や提出する届出書、添付書類などは保険ごとに異なります。

この記事を参考に、正確に手続きを行いましょう。